叡智と真理を探究する者のために

魂の視点

ふと、コメント欄から思ったことをつらつらと。前回の記事ともリンクするが、人には宇宙を信頼して生きる世界観というものがある。たとえば、植物の成長を単なる光合成と捉えるような視点というのは、すべからく人を無機質なものに落とし込み、豊かに生きる感情を奪う。



動植物は死ねば終わりのただの物質であり、人間にとってはひとつの消費物としてしか見なくなる。単なる消費の対象だな。唯物論の世界だ。



それは奪い、奪われの世界だ。唯物論に落ち込むと、そうなる。そんな視点に落ち込んでいては、人間―身体性―と宇宙との相互関係など決して見えてこない。



だが、昔からほとんどの文化で<自然>と対話したり、その恵みに感謝する人の感性は養われてきた。その根源にある感情は、「原始的」で未開な妄想の産物だろうか。



もちろん、違う。文化人類学者岩田慶治『カミの人類学』はこのあたりの名著だ。



霊的な世界を探求することは、まずは「観えてなくても」人間界以外の他界(鉱物、植物、動物の目に見える以上の世界)が在ると感じることから始まる。物質として生成・消滅以上の<意味>を見出していく。



岩田慶治は学者としてフィールドワークを繰り広げるのだが、「他界」と向き合ううちに、このようなことをふと感じた。それは皮肉にも日本に戻っているときだった。


「…私は先日、国立博物館で日本の山水画を見た。雪舟や大雅や玉堂など、山水画としてはそれぞれに立派な絵があったけれども、不思議にその前に佇んで考え込ませてくれたのは「山越し阿弥陀の図」であった。鎌倉時代の作といわれているが、前景は緑青と群青を交えて描かれた山と谷、その山肌にはまばらに松の木立が見えた。谷間にはわずかに雲が描かれていた。あれは立ち上る雲なのか、それとも谷をくだる雲なのか。その谷の向こう側に、金色の阿弥陀如来の頭には、金色のほのかな光背がかかり、光の矢が四方に放たれていた。

中略

突然ハッと気づいた。「そうだ。金色の阿弥陀如来こそ背景なのだ」と、そう思った。

中略

不思議にも向こうの世界に救いとられて、阿弥陀のいるところ、つまり仏国土がに生きることになる。その仏国土がこの山水画の背景であり、阿弥陀は仏国土の象徴だったのである」
(340ページより抜粋。最近はブログでも出典を明記しないとな。ちろっと自分的に改変して自説のようにしてちゃいかんわな。w)


そして岩田は、背景が生まれ、山水が成り立つ。山水が成り立つということは、他界のリアリティがそこに生まれているのだ、と。



仏教的感性というより、日本人的な感性は、アニミズム的に表現すれば、山川草木、すべてに「魂」があると考える。そしてすべての魂が高らかにいのちの歌を歌い上げる仏国土。



そのいとなみを感じ取り、表現しようとしてきた魂のアートに沈潜することで、他界のリアリティーを改めて知った。



宇宙の進化論も、人と宇宙の関係も。この<秩序>を見出して踏破していくには、こうした魂の感覚が土台に必要だ。そうでなくては、必ず、モノは単なるモノとみて、あまつさえ、生命をも単なるモノとみる世界観に堕ちてしまうことになるだろう。




天を見上げて、地を踏みしめて。「私はどこから来て、どこにいくのか」そう問いかけて豊かな意味に生きるには、<生命に注ぐ視線>である太古から受け継がれる感性を、人は捨てるべきではないだろうぜ。



ま。そんな話だ。

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